本当の《ミュシャ》が知りたい。幻の大作・スラヴ叙事詩を見逃すな!

皆さんは「ミュシャ」と聞いてどのような作品を思い浮かべますか?彼が自らの後半生を費やした《スラヴ叙事詩》がこの春、チェコ国外では世界で初めて公開されます。ミュシャの最高傑作に会える千載一遇のチャンス!チェコの歴史と、彼の愛のメッセージの全貌を覗いてみましょう。

今回のミュシャ展は、なぜこんなに注目される?

彼の名を聞いてピンとこない方でも、1度はその絵画を見たことがあるほど有名なミュシャ。「ミュシャ展」は過去に何度も行われており、実際に足を運んだことのある方もいらっしゃるでしょう。

この春六本木に、幻とも言われたミュシャの最高傑作《スラヴ叙事詩》全20作が上陸。なんと、チェコ国外では世界初公開なのです。

これは千載一遇の大チャンス、逃すわけにはいきません。今回はミュシャと《スラヴ叙事詩》の魅力に迫ります♡

絵は見たことあるけど、ミュシャって実際どんな人だったの?

アルフォンス・ミュシャは、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家の一人であり、グラフィックデザイナー。正式な名前はアルフォンス・マリア・ムハ。

現在のチェコにあたる、オーストリア領モラヴィアに生まれます。貧しい家庭に育ち、お金を稼ぐために7歳からバロック様式の荘厳な教会で歌っていました。

19歳の時にウィーンのデッサン学校に通い、ミュンヘン美術院を卒業して、27歳でパリに渡ります。舞台装飾の仕事や、学校で歴史画を学び、イタリアでは教会美術の装飾性に刺激を受けました。

彼の地位を不動のものにしたのは、34歳の時に手がけた、女優サラ・ベルナール主演の舞台「ジスモンダ」のポスターでした。優美で装飾的な作風が多くの人を魅了し、アール・ヌーヴォーの旗手として活躍します。

美しい女性像や繊細な装飾など、華やかで洗練されたポスターやパネルを手がける一方で、故郷のチェコや自身のルーツであるスラヴ民族をテーマにした作品も数多く描きました。

その集大成が、50歳で故郷に戻り約16年間を捧げた、20点の油彩画からなる連作「スラヴ叙事詩」です。

女性に厳しかったミュシャ

ミュシャは、46歳でチェコの女性と結婚しました。しかし意外にも女性に厳しく、「外国の女性には我慢できない」と口にしたそうです。

「どんな女もお前に近づいてきたら蹴とばせ」と息子に忠告したというミュシャ。幻想的で美しい女性と花の絵を描きつつも、現実にこんな女性はいないと気付いていたのかもしれません。

実はフリーメイソンの一員だった?!

ミュシャが実は、謎に包まれた世界最大の友愛結社「フリーメイソン」のメンバーだったことをご存知ですか?38歳で入会し、晩年にはチェコ支部のトップにまで上り詰めました。

作品にはフリーメイソンのシンボルも描かれているので、まだ見たことのない方は探してみてください。80年以上の時を経た今、オカルトマニアの心も掴んでいます。

今回の超目玉。彼が遺した幻の最高傑作《スラヴ叙事詩》

制作のきっかけは【パリ万博】

皆さんご存知の通り、ミュシャは流麗な女性を描き、時代の寵児として活躍しました。しかし彼が歴史画家としてある大作を遺していることを、一体どれほどの人が知っているのでしょう?

その「ある大作」とは《スラヴ叙事詩》。

彼がそれに取り組むきっかけとなったのは、パリ万博でボスニア・ヘルツェゴビナ館の装飾を手がけたこととされています。

パリ時代は版画やイラストで有名になりましたが、本心では画家になることを望んでいたミュシャ。取材現場でスラヴ民の貧窮と不自由さを目の当たりにし、我が民族のために何かできないかと本作の構成を練り始めたのです。

4年後、資金集めを兼ねて渡米します。滞在中にボストン交響楽団がチェコの作曲家スメタナの「わが祖国」を演奏するのを聴き、制作意欲を高めたそうです。

最終的にチャールズ・クレインというパトロンを得て、1911年に制作をスタートさせました。

人間愛にあふれる、スラヴ叙事詩

ミュシャは国を愛する気持ちが強い人でした。彼の美しい女性像、とびぬけたデッサン力と構成力は絵画の研鑽が土台にあります。

構成に沿ったポーズをモデルに取らせ、写真に撮って絵を描くという独自のスタイルで、本作も描かれています。

縦6m×横8mの巨大なキャンバスに、光を孕んだような柔らかな色彩で描かれたスラヴ民族の歴史。

スラヴ叙事詩が他の歴史画と違うところは、あるひとつの場面ではなく、いくつかの時間軸が重なって描かれているところです。

例えば青で描かれているのは神の世界で、神話や寓意。黄色や光が差しているのは、民衆と現実の世界。一枚絵に見えて、実は複合的な時間が流れているという点に注目してみてください。

そしてもう1つのポイントは、歴史上の英雄を中心に描くのではなく、民衆を主役に配置しているところ。英雄の偉大さではなく民衆を掘り下げているのは、ミュシャの人間愛の深さだといえるでしょう。

日の目を見ることがなかったスラヴ叙事詩

1962年に完成してチェコ国民とプラハ市に寄贈されたスラヴ叙事詩は、チェコ経済の疲弊で展示施設が確保できませんでした。現代アートの台頭で古臭いと言われ、旧ソ連との関係から汎スラヴ主義を鼓舞する題材が疎まれたのです。

キャンバスは丸められた状態で保管され続け、2012年にプラハのヴェレトゥルジュニー宮殿で日の目を見るまで、数点単位でしか公開されませんでした。

ミュシャが1日10時間は描いていたというスラヴ叙事詩。彼自らのアイデンティティやルーツを見直し完成されたこの作品。

エネルギーあふれる巨大で壮大なこの歴史絵巻が、あなたの知らないスラヴの歴史や人間の歴史を追体験させてくれるでしょう。

開催期間:2017年3月8日~6月5日

開催場所:国立新美術館 企画展示室2E

国立新美術館

〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2

【国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業 ミュシャ展】
開催期間:2017年3月8日~6月5日
開催場所:国立新美術館 企画展示室2E

午前10時―午後6時
※毎週金曜日、4月29日(土)-5月7日(日)は午後8時まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日(ただし、5月2日(火)は開館)

詳細はこちら

ミュシャから、愛のメッセージを受け取って♡

スラヴ叙事詩は、民衆の自由と平和を願ったミュシャが我々に遺した愛のメッセージ。彼の世界や作品に対する愛に触れられる、贅沢な経験ができることでしょう。

これら全20作はまだ常設展示場所が決まらず、流浪の運命にあります。人類と芸術が背負う宿命を感じに、ぜひ足を運んでみてください♪

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